ケーススタディ(一般論)

介護をする子への生活費の援助は贈与になるか
扶養義務者相互間の生活費の非課税と、税務署の着眼点

高齢の親の近くに転居して金銭管理や生活の手伝いをしている子が、親から毎月一定額を受け取り、そのうち一部を自分の生活費に充てていた場合に、その部分が贈与税の対象になるのか、税務署はどこを見るのかを整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、預金通帳・確定申告書・生活費の記録などの資料を確認したうえで行う必要があります。法令等は2026年10月9日時点で確認しています。

結論

先に結論

子が自分の生活費に充てた部分は、私法上は親から子への贈与と見るのが素直な整理です。ただし親子は扶養義務者相互間に当たるため、「生活費に充てるための贈与のうち通常必要と認められるもの」であれば贈与税の課税価格に算入されません(相続税法21条の3第1項2号)。

本件のように「毎月受け取り、その都度費消し、蓄財がない」場合、非課税の形式的な要件は満たしやすい一方、子に自活できる収入や貯蓄があったかどうか(被扶養者の需要)が最大の論点になります。転居と介護のために仕事ができず収入が落ちていた期間は非課税と整理できる余地が相応にあり、収入が回復した後の期間は主張が弱まる、という濃淡が出ると考えられます。

贈与と判断されても、相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算され、課された贈与税は控除されます。非課税の生活費部分は加算されません。したがって実質的な争点は、「贈与税をいくら納めるか」より「受け取った総額のうちどれだけが非課税の生活費として相続税の加算から外れるか」にあります。

質問への答え(要旨)

質問1 子の生活費に充てた毎月の金額は贈与と判断されるか

「全額が当然に非課税」とも「全額が当然に贈与課税」とも断定できません。子の収入・資産の推移を期間ごとに見て、通常必要と認められる範囲かどうかで判断されるものと考えられます。

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質問2 税務署はどこを見るか

税務署は相続税の調査の中で、被相続人の通帳の毎月の定額出金の使途として本件を把握するのが通常です。主な着眼点は次のとおりです。

  1. 子の資力(確定申告書の所得、預貯金残高の推移)。自活できる収入・貯蓄があれば「通常必要」を否定する方向に働きます。
  2. 蓄財の有無(子の口座残高が増えていないか)。
  3. 親の生活費として預かった部分の実額と、余剰の行方。
  4. 毎月定額で機械的に渡していないか(定期的な贈与、場合によっては定期金給付契約の贈与と見られるリスク)。
  5. 現金手渡しのため出金と使途の紐付けができるか。家計簿・レシート・介護の実態資料の有無。

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見込みの一覧

論点見込み要旨
親子が扶養義務者相互間に当たるか当たる直系血族。同居・別居を問わない
「必要な都度」「費消」の要件満たしやすい毎月受け取り毎月費消、蓄財なしであれば
「通常必要」(仕事ができず収入が落ちていた期間)非課税の余地あり需要の存在を確定申告書で示せれば主張は比較的強い
「通常必要」(収入が回復した後の期間)課税リスク高い自活できる資力がある者への生活費名目の交付と見られやすい
介護の対価(所得)として整理する構成取りにくい報酬の取り決めがなく定額。主張すると所得の申告漏れになり不利
贈与と判断された場合の生前贈与加算対象になる相続開始前3年以内。課税部分のみ加算、非課税部分は加算されない
親の生活費として預かった部分の残額相続財産預け金として相続開始時の残額を現金で申告。余剰の蓄積は名義預金・贈与と見られる

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申告・手続上の注意

注意
  • 贈与と整理する年分は、贈与税の期限後申告(無申告加算税・延滞税あり)が必要です。相続開始年分は、子が相続で財産を取得する場合は贈与税ではなく相続税の課税価格に加算します(相続税法21条の2第4項)。
  • 生前贈与加算は、基礎控除110万円以下の部分も含めて加算されます。非課税の生活費部分だけが加算から外れます(相続税法19条1項かっこ書き)。
  • 親の生活費として管理していた資金の相続開始時の残額は、被相続人の現金として相続財産に計上します。管理口座を分けていないと名義預金認定の典型パターンになります。
  • 「介護の報酬だった」と主張すると、贈与税の問題が所得税(雑所得または給与所得)の申告漏れに置き換わり、かえって不利になる可能性があります。

主な確認事項

  1. 子の各年の所得(確定申告書)と預貯金残高の推移。収入が落ちていた期間と回復した時期
  2. 被相続人の通帳で毎月の出金が確認できるか(出金日・金額の規則性)
  3. 親の実際の月額生活費と預かった金額との差額、差額の保管先、相続開始時の残額
  4. 子の生活費の内訳と、家計簿・レシートなど使途を示す資料の有無
  5. 介護の実態(要介護認定、介護サービスの利用状況、子の関与の内容)と、報酬の取り決めの有無

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1 質問への回答(詳しく)

1-1 前提となる事実関係(一般化)

高齢の夫婦だけでの生活が難しくなり、遠方に住んでいた子が親の近くに転居して、親所有の家屋に無償で住みながら、親の金銭管理や生活の手伝いをするようになった。転居後、子は親から毎月一定額(例として50万円)を現金で受け取り、そのうち一部(例として30万円)を親夫婦の生活費に充て、残り(例として20万円)を自分の生活費に充てていた。自分の生活費部分は毎月費消しており蓄財はない。転居当初の1年ほどは、たまっていた支払いの整理や家屋の片付けで、子の自営業はほとんどできていなかった。その後、親が亡くなり相続が開始した(令和8年中)。

1-2 私法上の性質

資金移動の性質判定は、税法の解釈より先に、民法上どのような法律関係だったかの事実認定から始まります。子が親から無償で受け取り、自分の生活費に費消していたのであれば、贈与(民法549条)と見るのが素直な整理です。親子間の介護に報酬契約があったという事情がない限り、労務の対価(所得)や預り金とは構成しにくいと考えられます。

1-3 扶養義務者相互間の生活費の非課税

贈与であっても、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は贈与税の課税価格に算入されません(相続税法21条の3第1項2号)。「扶養義務者」は配偶者と民法877条に規定する親族をいい(相続税法1条の2第1号)、直系血族である親子はこれに当たります(相基通1の2-1)。判定は贈与の時の状況によります。

非課税となるのは「生活費として必要な都度直接これらの用に充てるために」取得した財産に限られ、預貯金・株式・家屋の購入に充てた部分は「通常必要と認められるもの以外」として課税されます(相基通21の3-5)。本件は毎月受け取って毎月費消し、蓄財がないという点で、この要件は満たしやすい事案です。

1-4 最大の論点は「通常必要と認められるもの」か

「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいいます(相基通21の3-6)。条文上「扶養の必要性」は独立の要件ではありませんが、通達とQ&Aを通じて「被扶養者の需要」が判断要素に組み込まれています。国税庁のQ&A(平成25年12月)Q5-1は、親が子の家賃を負担する場面について「子が自らの資力によって居住する賃貸住宅の家賃等を負担し得ないなどの事情を勘案し、社会通念上適当と認められる範囲」であれば非課税としており、受贈者側の資力が判断要素であることを国税庁自身が示しています。

民法上、親の成人した子に対する扶養は、自己の生活を維持したうえで余力の範囲で援助する生活扶助義務と解されており、配偶者間の生活保持義務より弱い義務です。したがって、自活できる十分な収入・貯蓄がある子への生活費の交付は「需要がない」として否認される方向に働き、逆に収入が途絶・減少していた事情は非課税を支える方向に働くと考えられます。

本件では、転居・介護・金銭管理のために仕事ができず収入が落ちていた期間については、子に生活費の需要があったと説明しやすく、単身者の生活費として月20万円程度が社会通念上過大とまではいえないため、非課税と整理できる余地は相応にあると考えられます。一方、自営業の収入や預貯金が自活に十分な水準に回復した期間については、課税リスクが高まります。

補足

収入が回復した後も同額の援助が続いている場合、その期間の説明として「仕事を減らしたことへの補填」を持ち出すと、対価的な色彩を帯びて、かえって贈与または所得と整理されやすくなります。期間ごとに需要の有無で区分して説明する方が整合的です。

1-5 介護の対価(報酬)と見る余地

親族間の介護は扶養義務の履行として無償で行われるのが民法上の原則的な姿で、寄与分(民法904条の2)や特別寄与料(民法1050条)の制度も無償の貢献を前提としています。親子間でも雇用・準委任等の契約を結び対価として支払う合意があれば、受領金は贈与ではなく労務の対価となり、雇用契約に基づくものは給与所得、それ以外は原則として雑所得(事業として行う場合は事業所得)として所得税・住民税の対象になると考えられます。扶養義務の履行として給付される金品は所得税が非課税ですが(所得税法9条1項15号)、対価性があるものはこの非課税には当たりません。

本件は、報酬の取り決めや介護量に応じた金額設定がなく、子の「生活費」として定額が渡されているため、対価構成は取りにくいと考えられます。納税者側が「報酬だった」と主張すると、今度は所得の申告漏れ(過去年分の所得税・住民税・加算税)となり、贈与税非課税の主張より不利になる可能性があります。

寄与分との関係では、子は相続人なので特別寄与料(相続人以外の親族が対象。相続税法4条2項によりみなし遺贈として相続税の対象)の対象外です。相続人である子は遺産分割で寄与分(療養看護型)を主張しうるものの、扶養義務の範囲を超える特別の寄与であることと無償性が求められ、毎月の受領の事実は無償性を弱める方向に働きます。

1-6 贈与と判断された場合の課税関係

贈与税。暦年課税の基礎控除は年110万円です(相続税法21条の5、租税特別措置法70条の2の4)。各年の1月1日時点で18歳以上の子が直系尊属から受ける贈与は特例税率(200万円以下10%。措置法70条の2の5)です。

試算(月20万円・全額が課税対象とされた場合) 転居した年(9か月分)180万円 − 110万円 = 70万円 → 贈与税7万円
翌年(12か月分)240万円 − 110万円 = 130万円 → 贈与税13万円
相続開始年(6か月分)120万円 → 子が相続で財産を取得する場合は贈与税の課税価格に算入せず、相続税の課税価格に加算(相続税法21条の2第4項)。相続で取得しない場合は贈与税の対象(相基通21の2-3)

相続開始年より前の年分は期限後申告となり、無申告加算税・延滞税の対象になります。贈与税の更正・決定の期間制限は原則6年で(相続税法37条)、本件は全期間が射程内です。

生前贈与加算。令和6年1月1日以後の贈与から加算期間が3年から7年へ段階的に延長されていますが、経過措置により令和8年12月31日までに開始した相続では相続開始前3年以内の贈与が対象です(相続税法19条1項、令和5年法律第3号附則19条2項、相基通19-2、タックスアンサーNo.4161)。本件の贈与はすべてこの期間に入るため、贈与税の課税価格の計算の基礎に算入される部分は、基礎控除110万円以下の部分も含めて全額が相続税の課税価格に加算され、課された贈与税(期限後申告で納める分を含む)は相続税額から控除されます(相続税法19条1項、相基通19-6、19-7)。

非課税部分は加算されません。相続税法19条1項のかっこ書きは、加算対象を21条の3の規定により贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに限っており、生活費として非課税となる部分は相続開始前3年以内でも加算されません(平成22年11月19日裁決も明示)。加算は子が相続または遺贈により財産を取得する場合に限られます(相基通19-3)。

1-7 親の生活費として預かった部分の逆のリスク

子が親の生活費として管理していた資金は、法的には親の財産の預かり(預け金)です。相続開始時に子の手元に残っていた残額は、被相続人の相続財産(現金)として申告が必要です。預かった金額が実際の生活費を恒常的に上回り、差額が子の口座等に蓄積していれば、名義預金・預け金として相続財産に取り込まれるか、子への贈与と認定される可能性があります。子が管理口座を自分の口座と分けていなければ、出金と使途の紐付けができず、名義預金認定の典型パターンになります。なお配偶者の生活費を被相続人が負担する部分は配偶者間の扶養であり、贈与税の問題は通常生じません。

2 税務署の着眼点と調査実務

2-1 把握の経路

税務署は、相続税の調査の中で被相続人の預金通帳を確認し、毎月の定額出金の使途を尋ねます。本件のような「子が受け取って一部を自分の生活費に充てていた」という事実は、この過程で把握されるのが通常です。

2-2 着眼点

着眼点何を見るか納税者側の備え
子の資力確定申告書の所得、預貯金残高の推移。自活できる収入・貯蓄があれば「通常必要」を否定する方向収入が落ちていた期間を確定申告書で客観的に示す
蓄財の有無子の口座残高が不自然に増えていないか。増えていれば「生活費に充てられなかった部分」として課税(相基通21の3-5)残高推移を整理しておく
親の生活費の実額預かった金額が本当に親のために費消されたか。余剰は相続財産または子への贈与公共料金・食費・医療介護費の記録、管理口座の分離
金額・定額性一定額を毎月機械的に渡していると「必要の都度の援助」より「定期的な贈与」に見えやすい。長期に定額を渡す約束があったと認定されると定期金給付契約の贈与として初年度に一括課税されるリスク金額の根拠(実際の生活費)を説明できるようにする
現金手渡し出金と使途の紐付けができない。課税庁側にも立証の壁があるが、納税者側も使途を説明できなければ不利家計簿・レシート・介護の実態資料
家屋の無償使用親子間の家屋の無償貸与は原則として相続税法9条の利益とされつつ、少額または課税上弊害がなければ課税しなくて差し支えない(相基通9-10)。実務上は課税されていないが、住居費がかからない事実は需要を小さく見る方向で勘案されうる家屋は被相続人の相続財産として評価する

2-3 税務署の反証の仕方

受贈者に自活できる収入・資産があったこと、受贈者の預金が増えていること、定額・機械的な交付であること、使途を示す資料がないことを積み上げて「通常必要」を否定し、贈与税の決定ではなく相続税の生前贈与加算として課税するパターンが典型と考えられます。相続税の調査で処理する方が、贈与税を別途決定するより簡便だからです。

2-4 調査実務の規模感

国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)では、相続税の実地調査9,512件、非違割合82.3%、1件当たり追徴税額867万円、贈与税の実地調査2,778件(追徴123億円・無申告事案中心)です。年240万円・総額500万円程度という規模のみで贈与税の調査が独立に選定される可能性は高くないと思われますが、相続税の実地調査に入れば、被相続人口座の定期出金は必ず確認され、使途の説明として本件が問題になります。リスクの大きさは、相続財産の規模(相続税調査に入るか)に大きく依存します。

3 根拠条文・通達・Q&Aの整理

根拠内容
相続税法21条の3第1項2号扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものは、贈与税の課税価格に算入しない
相続税法1条の2第1号、民法877条1項、相基通1の2-1扶養義務者は配偶者及び民法877条に規定する親族(直系血族・兄弟姉妹、審判を受けた三親等内の親族)。三親等内の親族で生計を一にする者も含む。判定は贈与の時の状況による
相基通21の3-3「生活費」とは通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く)で、治療費・養育費その他これらに準ずるものを含む
相基通21の3-5非課税は生活費として必要な都度直接これらの用に充てるために取得した財産に限る。預貯金・株式・家屋の購入に充てた部分は課税
相基通21の3-6「通常必要と認められるもの」は被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産
国税庁Q&A(平成25年12月)Q1-1、Q1-2、Q1-3、Q5-1扶養義務者の範囲と生活費の意義、通常必要の判断基準、数年分の一括贈与で預貯金に残った部分は課税、子の家賃の親負担は子が自らの資力で負担し得ないなどの事情を勘案して社会通念上適当な範囲なら非課税
タックスアンサーNo.4405生活費や教育費の名目で贈与を受けても、預金したり株式や不動産の購入に充てた場合は贈与税がかかる
相続税法19条1項、令和5年法律第3号附則19条、相基通19-2、19-3、19-6、19-7相続開始前3年以内(令和8年12月31日までの相続)の贈与を相続税の課税価格に加算。21条の3の非課税部分は対象外。加算は相続又は遺贈により財産を取得した者に限る。課されるべき贈与税を含めて贈与税額控除
相続税法21条の2第4項、相基通21の2-3相続開始年の被相続人からの贈与で加算されるものは贈与税の課税価格に算入しない。相続で財産を取得しない者には適用がない
相続税法21条の5、措置法70条の2の4、70条の2の5基礎控除110万円、18歳以上の直系卑属への贈与は特例税率
相続税法37条贈与税の更正・決定の期間制限は原則6年
相基通9-10親子等特殊の関係がある者相互間の土地・家屋・金銭等の無償貸与は原則として法9条の利益。利益が少額又は課税上弊害がない場合は課税しなくて差し支えない
所得税法9条1項15号扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品は非課税所得
民法904条の2、1050条、相続税法4条2項寄与分(療養看護型)、特別寄与料(相続人以外の親族が対象・無償の労務提供が要件)、特別寄与料はみなし遺贈として相続税の対象

4 前提によるケース分け

前提見込み整理
A 仕事ができず収入が落ちていた期間に、毎月費消し蓄財がない非課税の余地あり被扶養者の需要があり、月額も社会通念上過大でないとして21条の3の非課税を主張できる。確定申告書で所得の減少を示すことが前提
B 自営業の収入や貯蓄が自活に十分な水準に回復した期間課税リスク高い需要がないとして贈与課税。相続開始前3年以内の加算対象。贈与税の期限後申告を検討
C 受け取った額の一部が子の口座に蓄積している蓄積部分は課税相基通21の3-5により、費消されなかった部分は非課税にならない
D 介護の報酬として取り決めがあった所得課税贈与ではなく給与所得または雑所得。過去年分の所得税・住民税の申告漏れの問題に置き換わる
E 親の生活費として預かった分に余剰があり、相続開始時に残っている相続財産預け金として被相続人の現金に計上。管理口座が分かれていなければ名義預金認定のリスク
F 子が相続で財産を取得しない贈与税のみ生前贈与加算の適用はなく、相続開始年分も含めて贈与税の対象(相基通19-3、21の2-3)
実務上の整理の方向

申告にあたっては、(a)仕事ができなかった期間の分は生活費非課税、(b)収入が回復した期間の分は贈与として加算、という期間ごとの区分で整理し、贈与と整理する年分は期限後申告を検討する、という形が現実的と考えられます。全額非課税で押し切る場合は、子の所得の推移と費消の実態を示す資料を揃え、調査で説明できる状態にしておくことが前提になります。いずれの整理でも、親の生活費として預かった部分の残額と差額の行方は別途整理が必要です。

5 確認事項の全件

  1. 子の各年(転居の前年から相続開始年まで)の所得(確定申告書)と預貯金残高の推移。蓄財の有無、収入減少の程度と期間
  2. 被相続人の預金通帳で毎月の出金が確認できるか。出金日・金額の規則性
  3. 親の実際の月額生活費(公共料金・食費・医療介護費等)と預かった金額との差額、差額の保管先、相続開始時の残額
  4. 子の生活費の内訳(住居費不要のもとで何に費消したか)。家計簿・レシートの有無
  5. 介護の実態。要介護認定の有無・時期、介護サービスの利用状況、子の関与の内容と時間
  6. 介護に対する報酬の取り決め(口頭を含む)の有無
  7. 家屋の無償使用の経緯、固定資産税等の負担者
  8. 子が相続により財産を取得するか
  9. 子の年齢(各年1月1日時点で18歳以上であれば特例税率)
  10. 相続財産全体の規模(相続税の実地調査の可能性の見積り)

6 参考となる裁決例

6-1 平成22年11月19日裁決(非課税を認めた例)

被相続人が要介護4の配偶者(資産は自宅と預金約80万円、年金以外の収入なし)の介護付有料老人ホーム入居金945万円を負担した事案。審判所は、21条の3第1項2号の趣旨(生活費に充てるための財産取得は担税力を生じない)から「通常必要」を被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲と解し、被扶養者に支払能力がなく介護上必要最小限の施設であったことから非課税と判断しました。あわせて、非課税財産は相続開始前3年以内でも相続税の課税価格に加算されないこと、扶養義務の履行として給付される金品の範囲内にあるものは贈与ではなく所得税法上の非課税所得(当時の9条1項14号・現15号)、その範囲外のものが贈与税の対象となり、そのうち「通常必要」なものが21条の3で非課税になる、という整理を示しています。

6-2 平成23年6月10日裁決(課税例)

入居金1億3,370万円の、プール等を備えた住宅型有料老人ホーム(受贈者は要介護でない)の入居金を夫が負担した事案。「生活費に該当するか否かは個々の具体的事情に即して社会通念に従って判断」としたうえで、社会通念上日常生活に必要な住の費用とは認められず、入居が不可避でもなかったとして非課税を否定し、夫負担分約1億2,359万円を相続税法9条のみなし贈与として相続開始前3年以内の贈与に加算しました。

6-3 令和元年9月24日裁決(必要な都度と現金の立証)

妻が夫に老人ホーム費用として将来分の資金をまとめて渡した事案。入居時費用と月額費用は限られており、入居前に将来分をまとめて贈与する必要はなかったため「必要な都度」取得したとはいえないとして非課税を否定しました。一方、現金で入金された750万円は原資が妻に帰属すると立証できないとして贈与財産と認められませんでした。

6-4 平成28年11月8日裁決(参考)

家業を手伝う子らが被相続人から生活費等の名目で月3万円から20万円程度を受け取っていた事案で、子ら自身に多額の資産を形成できる収入がなかったことを理由に、家族名義の保険契約等の多くを被相続人の財産と認定しました(名義人自身が管理していた預金の一部は相続財産でないとされ、一部取消し)。生活費の受領自体は問題にされていませんが、「生活費程度しか受け取っていない家族の名義で資産が増えていれば被相続人の財産と見る」という調査側の発想が表れています。

留意

6-1から6-3はいずれも配偶者間(生活保持義務)の事案です。成人した子に対する親の扶養は生活扶助義務にとどまるため、子への援助では「需要」の立証がより重要になります。なお、子への毎月の送金を受贈者の自活能力を理由に贈与と認定した公表裁決は、今回の調査では確認できませんでした。

7 出典

主な出典(2026年10月9日確認)